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日本語力の危機。〔人間はAIに勝てるのか〕

今、日本の子どもたちの文章読解力が危機的な状況にある―。

日本経済新聞3月30日朝刊に、興味深い、というより背筋が寒くなるようなコラムが掲載されました。
AI(人工知能)を研究する国立情報学研究所の新井紀子教授は、東大合格を目指すAI「東ロボくん」プロジェクトを指導。

2015年センター試験模試では、受験生40万人のうち、上位20%に入る成果をあげたのです。計算や記憶を得意としながらも、文章読解力ではいまだレベルの低いAIが上位に入ったことを疑問に感じた新井氏は、人間の方(中高生)の文章読解力を調査してみました。(下記リンクのテスト結果参照)

■地理の教科書から作成した読解力テスト
※日本経済新聞3月30日「辛言直言~AIで変わる大学教育」

質問を読みさえすれば、何の知識がなくても、誰でも答えられるテストです。しかし、サンプルとなった中学生たちの正答率は53%。この数字に、協力した教育委員会や校長も絶句し、「データはまだ分析中だが、おそらく半数程度の生徒は教科書を読めていない」と新井氏は危ぶみます。

暗記や計算能力も気になるところですが、子どもたちの二人に一人がテストの質問文すら理解できていないというのは驚くほかありません。
中高生の国語力・読解力の低下は「家に新聞や本がない」「家庭の食事などで大人と会話することがない」など、現代の家庭環境やコミュニケーションの変化に原因がある、と新井氏は指摘します。

囲碁やチェスで、人間の世界チャンピオンに勝てるようになったAI。近い将来、AIがビジネスの知的分野で人間に代わることが予測されています。人間がAIと共存し、補完しあうためには、今後どのような大学教育が必要となるのか。その課題を抽出する試みとして、上の「東ロボくん」プロジェクトが始まったのです。
しかし蓋を開けてみたら、大学など高等専門教育以前に、中高生の看過できない国語力低下が明るみに出ました。
「最新のプログラミング言語習得以前に、まず“てにをは”を」というわけです。

さて、言の葉庵より子どもたちの日本語力をきたえるために以下の提案をしてみたいと思います。

「家庭と学校で一致協力して子どもに読書習慣をつけさせる」。

これが大ルール。まず親にも本をよんでもらい、子どもと感想を話し合いましょう。親子、同じ本でなくてもいいですね。
学校カリキュラムは、「本がキライになる」文法や漢字書き取り・成語熟語の暗記に重きを置かず、読書を通じて日本語とは何かを教えることが大切です。


読書を通じて日本語力を高めるポイントを「かきくけこの力」として想定しました。

〔か〕 書く力
〔き〕 聞く力
〔く〕 くりかえす力
〔け〕 毛嫌いしない力
〔こ〕 心の力

書く力:
読む力を養うとき有効なのが、その本のポイントを書き出すことです。一冊の読書感想文は子どもにとって、なかなか骨です。本を読みながら心に残る言葉や教え、気に入ったフレーズをメモに書き取ってみましょう。書き写すのが面倒ならば、本の余白に鉛筆で抜き出して書いてみるといい。後で読み返すときに、さっ見るだけで本の内容があらまし思い出せるでしょう。文章に線を引いたり、丸囲みすることは、書く力を養ううえでまったく効果はありません。自分の言葉で書いてみることが大切。

聞く力:
阿川佐和子さんのベストセラーで有名になりました。文章が上手な人も、話がうまい人も、基本はこの「聞く力」です。話を聞いたら、それを書き留め、要約する習慣もつけましょう。

くりかえす力:
反復は学習の基本です。しかし、覚えたい単語を何百回も紙に書く方法は、何の効果もありません。言葉をおうむ返しに反復するのではなく、一度読んだ本をしばらくして繰り返し読んでみて、その内容と主張、思想をもう一度確かめてみるのです。古典や名著と呼ばれる本は、読書するたび自分の心の成長にあわせまったく違う姿をあらわしてくれるもの。時代のベストセラーも、10年、20年後に読み返してみると、世相の反映をしることができてとても興味深いものです。

毛嫌いしない心:
好きなことを追求することが、研究や専門化です。これは自分の得意分野を構築していくことであり、大学教育や職業は「好き」の延長です。しかし「好き」を深め、豊かにしていくために必要なのが、「知らないこと」「興味のない分野」、つまり自分の嫌いだったものです。発見や発明もここに隠れています。
たとえば、キリスト教の専門家が、興味のなかった仏教史を調べてみる時。まず表面的な違いが目につくのですが、深く知るにつれ共通点が多いことに驚くでしょう。そして、宗教というものがうすぼんやりとわかってきます。宗教がわかれば、芸術や音楽とつながっていることにも気づく。それは文化や人間の創造性とつながっており、やがて深い人間理解に到達できるかもしれません。こうしてキリスト教への理解も、専門性も格段に高まっていくのです。
毛嫌いしない力は、想像力と創造力を高め、「心の力」を育てます。

心の力:
読書において、心の力とは、作者の身になって作品の背景と奥深さを感じ取ること。つまり、行間を読む力です。読書力が高まれば、もはやその作品世界を超えて、自分だけの世界と作品を創りだすことができます。読書とは違うかもしれませんが、和歌や俳句の鑑賞がこれです。能や禅などの日本文化も知識や知性ではなく、心の力で成立するもの。
そもそも初等教育で必要なのは、計算力や記憶力よりも文章読解力を通して心の力を養うことではないでしょうか。これは少なくとも今後100年間、AIには獲得できない能力なのです。

2016年04月01日 16:41

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