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名言名句 第五十八回 述懐 人生意気に感ず 功名誰かまた論ぜん。

 No.74
人生意気に感ず 功名誰かまた論ぜん。~魏徴『述懐』


今回の名句は、唐王朝建国の功臣、魏徴の詩『述懐』の掉尾を飾る二句です。
志を同じくする人に出会えたなら、自分の生涯は定まってもはやゆるがない。
名をあげ、功を成すことなど二の次である、
と魏徴は高らかに謳いあげています。
これはいにしえの豫譲の「士は己れを知る者のために死す」と同様の境地です。

『述懐』は、『唐詩選』第一/五言古詩の巻頭に置かれ、漢詩の最盛である唐詩の幕開けを告げる名作です。
わが国でも「人生意気に感ず」は人口に膾炙し、魏徴の名を知らない人もおそらく耳にしたことのある有名な句ではないでしょうか。

さて『述懐』の成立年は特定されておらず、隋末の混乱した時代の中で、どの時期に置くかによって詩の内容と意向は大きく変わってしまいます。
これを通説に従い、武徳八年(西暦625年)とすると、李密のもとに身を置いていた魏徴が、高祖李淵に召され唐に降った頃となります。

この時、魏徴は高祖の命を受け、かつての李密軍の同志、徐世勣(後の李勣)の宣撫に向かうこととなりました。隊列を整え、潼関を進発。その行軍の途上で成した作であろうと推察されます。

「唐の高祖は宿敵であるわれを罰せず。あまつさえ深く信頼し、この重い任を下されたのだ。
あなたもしかるべき主君のもとで存分に働き、新しい国をともに築いていこうではないか」。
もしも高祖の降伏勧告書に、この『述懐』が旧友からの私信として添えられていたのなら、徐世勣は大きく心を動かされたかもしれません。

この後、徐世勣は唐に帰順。太宗の世となってより、大将軍として数々の殊勲をあげ、唐建国に大きく貢献していくこととなっていくのです。

高祖、魏徴、李勣、そして太宗。偉人、傑人とはいえ、一人の力には限りがあります。
しかし国を創らんという「意気」が人と人とを結びつけ、三百年の礎を築きあげました。
出会った瞬間、「百年の友に会った」「この人となら成し遂げられる」と目を開かせてくれる人がいる。
これは何も千三百年前の遠い国の物語ではなく、今のあなたを明日待ち受ける運命の出会いかもしれないのです。

■『述懐』魏徴

〈原文/読み下し〉

中原還(ま)た鹿を逐い
筆を投じて戎軒(じゅうけん)を事とす
縦横計就(な)らざるも
慷慨志猶お存す
策を杖(つえつ)いて天子に謁し
馬を駆って関門を出づ
纓(えい)を請うて南粤(なんえつ)を繋ぎ
軾(しょく)に憑(よ)って東藩を下さん
鬱紆(うつう)として高岫(こうしゅう)に陟(のぼ)り
出没して平原を望む
古木寒鳥鳴き
空山夜猿(やえん)啼く
既に千里の目を傷ましめ
還(ま)た九逝の魂を驚かす
豈(あ)に艱険を憚らざらんや
深く国士の恩を懐(おも)う
季布(きふ)は二諾無く
侯嬴(こうえい)は一言を重んず
人生意気に感ず
功名誰か復(ま)た論ぜん

『述懐』(『唐詩選』第一)


〈訳詩〉

中原は今、覇を争って敵を追う
われ筆を捨て兵車を住処とせん

わが計略ならざるも
国を思う志なお胸にあり

軍馬の鞭をつきて天子に謁し
馬を駆って関門を出づ

南蕃の王を戒むる縄を乞い
東の属国を降さんと兵車を駆る

九十九折りの山坂を上れば
平原は見え隠れせん

枯れ木に寒々と鳥は鳴き
夜の裸山に寂しく猿は啼く

遥かなる山河は涙を誘い
望郷の思い幾たびもわが胸を震わす

されど艱難辛苦恐るるに足りず
国士と迎えられし恩かくも深きゆえ

季布に二言無く
侯嬴は一言に死す

人生はただ意気に感ずるもの
手柄、功名何するものぞ


(2016年12月 水野聡)

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