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千鳥の香炉を転がす利休。

月がきれいな夜です。
名月にちなむこんな逸話をご紹介しましょう。

先日、銀座カルチャー講座で、『茶話指月集』を読みました。
段落骨子は以下。


さる名月の頃、利休邸にて、細川幽斎・蒲生氏郷を招き茶会が催された。

茶事は滞りなく進行し、主客満足の体にてはや刻限も過ぎる。

客が立とうとする時分、氏郷がふと、
「お師匠様。近頃入手された〔千鳥の香炉〕をぜひ拝見したいものですが」
と申し出る。

利休の面色はたちまち険しくなり、勝手に下がったかと思うと、
千鳥の香炉を手に持ち帰り、灰をざっと捨て、香炉をごろごろ転がして客に見せた。
声もなく、彫像のごとく固まる氏郷。

しかし、正客の幽斎はにこりとほほえみ、
「清見潟の心ですな」
というと、利休の機嫌も直り、
「いかにも。仰せのごとく」
と答え、打って変わったご機嫌の体であったという。


千鳥の香炉は当時、利休の念願がかなって入手した東山御物の大名物です(連歌師宗祇より値千貫にて譲られたとか)。
さて、この茶会では、千鳥の香炉はもともと予定になく、通常の仕立てにて万事進行し、主客なごやかに茶会を終ろうとした。
そこへ予定外の氏郷の所望。
「今日の茶事も無事終ろうとするのに、今に及んでなにゆえ無粋な横槍を入れるのか。憎きは千鳥なり」
この時利休の脳裏に浮かんだのが、順徳院の名歌でした。

清見潟 雲も迷わぬ 浪の上に 月の隈なる 群千鳥かな (順徳院御百首)

(名所清見潟には一片の雲もなし。その冴え冴えとした波の上にあたかも月の影(雲)のように千鳥の群れが飛び交っていく景色の面白さよ)

幽斎は当代一の歌人です。瞬時に利休の心を読み取った眼力にはまさに驚くほかありません。


この逸話と歌については、千鳥を「邪魔者」としたのか、はたまた「風流」として褒め称えたのか、という二種の解釈がある。
(一点の曇りもない完璧な名品を、侘び数奇はむしろ嫌ったという見地から)(利休の見地はむろん「邪魔者」でしょうが…)

講座でも、受講者の間でこもごも意見が交わされ、歌の解釈は人それぞれ…とひときわ面白く感じたものでした。

2013年09月20日 20:55

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