言の葉庵 |能文社 |お問合せ

理想の人を見つける方法。

良き人にめぐり会いたい―。
これは国や時代を越える、多くの人の願いではないでしょうか。
学問の師、仕事のパートナー、配偶者、友人…。良き人との出会いは、人生を何倍も豊かに、深く、充実したものにしてくれるはず。
しかし、「理想のパートナーがなかなか見つからない」

「良い人材が、今はどこにもいない」
という声をよく耳にします。
今回、『葉隠』と『貞観政要』から、理想の人を求める方法をご案内してみましょう。
これは必ずしも、千年に一人の偉人だけが成しえる方法というわけではなく、意外なことに普通の人にも簡単に実践できそうなことだったのです。

以下、『葉隠』、『貞観政要』の各逸話を現代文でどうぞ。


1.【葉隠】

・人が好きであれば、そのまま出来上がってくるもの

 勝茂公※1は、光茂公※2に御代譲りするに先立って、二十箇条ほどの家訓の巻物を相伝した。これらはすべて直茂公※3からの教えである。その内容は例えば、直茂公のご病気がいよいよ重くなり、亡くなる年の五月二十六日に勝茂公がお見舞いされた時に、直接受けた教えだ。  

直茂公は、
「国家を治めること、よき人を持つに極まる」
といった。勝茂公は、
「よき人を得るには、立願などをかければよろしいのでしょうか」
と聞き、直茂公は、
「そうじて人力の及ばぬことをば、仏神にお頼みするもの。よき人を集めるは、わが力で成ろう」
と答えた。
「それは、いかがすればよいものでしょうか」
と重ねて聞くと、
「好きなものは、自然に集まってくる。花が好きだとせよ。今まで、一株も手元になかったのに、しばらくすると色々種類が集まりだし、その内、世にも珍しい花を手に入れることができるものだ。かくのごとく人が好きであれば、そのまま出来上がってくるものだ。ただ、好きであればそれでよい」
とさとした。また、
「何ごとも、まことのこもらぬものは役には立たぬ」ともいった。その他にも数ヶ条が、この時のお話からである。

※1勝茂公 鍋島勝茂 佐賀鍋島藩初代藩主
※2光茂公 鍋島光茂 佐賀鍋島藩二代藩主 山本常朝の主君
※3直茂公 鍋島直茂 佐賀鍋島藩藩祖

聞書四 55
(『葉隠 現代語全文完訳』能文社2006年)
http://nobunsha.jp/book/post_35.html


直茂から、初代藩主勝茂へ。実の父から子へと直接言葉で伝えられた国家継承の要諦です。
まず冒頭に、「国家を治めること、よき人を持つに極まる」とあります。身近に有能なパートナーをもつことが、どのような組織であれ、必須の前提条件。現に直茂自身、元主家である龍造寺家から“国譲り”を受けるに際し、龍造寺家縁者の中から、有為の人材を抜擢し、家老クラスの要職に置いているのです。

しかし有能な人材は、外に求め、他から抜擢するものではない。花集めをたとえとして、「人が好きであれば、そのまま出来上がってくるもの」と直茂は教えました。「集まってくる」ではなく、「出来上がってくる」に注目してください。
人は信用され、任された時、思いのほかに全力を尽くし、自ら成長するもの。
すなわち、理想の人は案外身近にいて、そもそも「探し」「見つける」ものではなく、「見抜き」「育てる」ものだと気付かされるのです。

2.【貞観政要】

・賢者だけが過去からよみがえり、王に会いに来る

 貞観九年、太宗が侍臣にいった。
「帝王たるもの、自分の好みを慎まねばならぬ。たとえば、鷹や犬、名馬。もしくは音楽、女、珍味など。朕がもし、これをほしいと思えば、たちどころに眼前に用意されることであろう。このようなものは、常に人としての正しい道を踏み外させることが多い。邪臣も忠臣も、その時の君主の好みにより現れるものである。任じた家臣が、賢人でなければ、どうして亡国を迎えずに済むものか」

 侍中の魏徴が答えていう。
「臣は以下のような話を聞いております。昔、斉の威王※1が、淳于髠(じゅんうこん) ※2に問いました。
『私の好みは昔の帝王と同じであろうか、異なっているのであろうか』
 淳于髠はいいました。
『いにしえの聖王は、四つのものを好みました。しかし今の王は、その三つを好むのみ。いにしえの王は女色を好みました。王もまたこれを好む。いにしえ、馬を好む。王またこれを好む。いにしえ、美味を好む。王、またしかり。ただ一点、同じではないものがございます。いにしえの聖王は、賢者を好みました。が、王はこれを好まれません』
 斉王はいいます。
『好むほどの賢者がないからである』
 淳于髠がいう。
『昔の美女には、西施、毛嬙(もうしょう)がおりました。美味には、龍の肝、豹の胎児が、名馬には、飛免(ひと)、緑耳(りょくじ)がございました。これら、もちろん今はすでにありません。しかし、これら三つを超えるほどのものが、今の王の厨房、後宮、厩に揃っておりましょう。しかるに王は、今賢人だけがいないとおっしゃる。さてさて、賢者だけが過去からよみがえり、王に会いに来るのを待っていらっしゃるのでありましょうか』」
 太宗は、これに深く耳をかたむけた。


※1 斉の威王 斉国、桓公の子。名は因斉。王を称した。
※2 淳于髠 戦国時代、斉の人。該博多弁、為政者を巧みな弁舌で諫めた。史記『滑稽列伝』に逸話がある。威王に仕え貢献した。この逸話は、『説苑』尊賢篇にあるが、原文には少異がある。

 巻第一 政体第二 第十四章
(『貞観政要』(上)能文社2012年)
http://nobunsha.jp/book/post_131.html


『貞観政要』巻第一の政体第二は、政治の根本原理を説いたもの。ここでは、家臣に賢人を求める太宗に、そもそも賢人を求めるとはどういうことかを、魏徴がやんわりと諭しています。

魏徴の建言に引用される、戦国時代 田斉の威王は決して暗愚な主君ではありませんでした。君位継承後、三年間無為の時間を過ごし、のちに決然と政治改革を断行して、賢者を積極的に登用。斉を、戦国期を代表する強国へと変身させた名君なのです。

「鳴かず飛ばす」の警句により、眠れる獅子、威王を覚醒させた淳于髠は、威王が厚く信任した側近の一人。
王は、美女、名馬、美食を好むが、賢者だけを好まない―。
淳于髠の指摘に、「好むほどの賢者がないからである」と答える威王へ、痛烈な皮肉を浴びせかけます。
賢者だけが過去からよみがえり、王に会いに来るのを待っている―。
王の側近く、あるいは周辺にも、掃いて捨てるほど賢者はいるではありませんか。なにゆえ、それらを見抜けず、また使うこともできないのか、と。

家族、友、同僚。ごく身近に自分を支え、成長させてくれる理想のパートナーがいるものです。
案外、苦手な人、敬遠している人物の中にこそ、生涯のパートナーとなる宝物が隠れているのかもしれません。

2016年07月13日 19:08

>>トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://nobunsha.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/304

◆言の葉庵推奨書籍

◆言の葉メールマガジン
「千年の日本語。名言・名句マガジン」

「通勤電車で読む、心の栄養、腹の勇気。今週の名言・名句」、「スラスラ古文が読める。読解ポイントの裏技・表技。古典原文まる秘読解教室」などのコンテンツを配信しています。(隔週)

◆お知らせ

ビジネス・パートナー大募集

現在、弊社では各業界より、マーケティング関連委託案件があります。
つきましては下記の各分野において、企業・フリーランスの協力パートナーを募集しています。

◇アナリスト、リサーチャー
◇メディアプラン(フリーペーパー、カード誌媒体等)
◇プランナー、アートディレクター、コピーライター
◇Web制作
◇イベンター、SPプロモーション
◆化粧品・健康食品・食品飲料・IT・通信分野

 

Copyright(c)2005.NOBUNSHA.All Rights Reseved

Support by 茅ヶ崎プランニングオフィス