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古典は、原文で読むべからず。

よく古典の解説本などで「古典は必ず原文で読むべき。いや、読まねばならない」とあります。理由として、現代語訳では「原文のニュアンス、原著者の真意が伝わらない」、「美しい古文の雅趣が失われる」からだそうです。ぼくの考えでは、「古典は原文で読むべからず」。理由を述べましょう。

1.誤読の恐れ
2.根気が続かない
3.自己満足に終わる

まず、「1.誤読の恐れ」。これがいちばんヤバイ。原文を間違って読んでしまうのですから。落とし穴はいっぱいある。主語、語り手の取り違い。時代、時制の誤解。敬語の対象人物とそのニュアンス。現代語とは意味の変わった言葉による、文意の捉え損ない…。中途半端に古文を解する人ほど陥りやすい罠です。次が、「2.根気が続かない」。原典・語釈・解説・現代語訳の4点セットでフル装備し、あっちの本、こっちのページへと、1行、1ページ読むたびに行ったり来たり。どんなにガマン強い人でも、いい加減いやになってしまいますよね。こんな苦労してまで、何で読まなきゃならないのか…、と古典嫌い、古典離れをどんどん増やしているのが現状です。
そして、究極は「3.自己満足に終わる」。上のように、どうにかこうにか、苦心惨憺の末、古典名著を一冊読破。「徒然草を読んだぞ」という満足感は残るでしょう。でも、著作の本意、作品のキーとなる文章、行間の意味、本文中の関連逸話、あるいは全文の構成・伏線の有無など、普段の読書では、当然起きてくる読後の印象や自分なりの感想・味わい・感動などは何も残っていないのでは?
これが自己満足だという証拠に、おそらくその後、読んだ本との関連書籍や、突っ込んだ研究書などへ、読書が次につながっていくことは、まずないはずです。作品を理解し、鑑賞できていないので、興味など起こるはずがない。古典名著は、文章の典雅を専ら味わう歌物語などは別として、大半の作品は、まずその内容に価値があるのです。訳文にまず当たり、作品のアウトライン、構成をつかみ、ディティールを汲み取ることが大事。意味さえわかれば、興味も湧いてくるはずです。読後、必要に応じて原典、解説書に当たればいい。とはいいながら、適切な現代語訳作品が少ないのも、また事実。よい現代語訳を見分けるコツは、
1.なるべく出版年月の新しいものを選ぶ→訳文がこなれ、訳がより正確になっている
2.文章のボリューム/ページ数が原典と近いものを撰ぶ→意訳のため文章量が増える
3.著者またはその作品を専門分野として研究している学者の訳を避ける→訳に自説の色付けがなされている
の3点です。まあ、本屋でさらっと立読みしても、怪しげな日本語で書かれた現代語訳は、すぐに判別がつくとは思われますが…。多大なる労力をはらって、生涯にたった2、3冊の古典名著を読むよりは、すっきり意味の通じる現代語訳で100冊、200冊のすばらしい本に巡り会う。豊かな読書体験を一人でも多くの方にしてもらいたい…。そのために、余計なことかもしれませんが、あえてこんなことも書いてみました。

2006年01月22日 21:50

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コメント

なかなかマメな更新、恐れ入ります。
ぼくもがんばって、現代語訳の古典を
読むようにします。いまは、もっぱら
現代語訳ではなくて、現代語の
ネーティブなやつばかりです。
最近、とても気になるのがネーティブの
はずなのに、変な現代語で書かれている
口語(的なるもの)体の小説です。
特に中年作家によく見受けられます。
「そんな、言い方しねーだろ」という
不自然(こっ恥ずかしい)な若者語が…。
その作中人物、とても若者とは思えません。
中年があまり無理しちゃいけませんね。
自戒

投稿者 koz-mic : 2006年01月23日 18:52

英語の本を原文で読めと言う人がいますが、よっぽどの読解力がないと(またはまだ訳本が出ていないとかいう事情などがないと)苦痛が先に立ってしまって挫折してしまうものです。第一面白くないですよね。
文章を読むということは楽しみですから、どんな高尚なものでも楽しめる状況を優先する方がいいような気がします。
もしもそれで本当に興味を持ったら、きっと原文へチャレンジしてみたくなるものだと思います。私も源氏物語はそうでした。

投稿者 hijiri : 2006年01月26日 00:46

koz-micさん
毎度ありがとうございます。
「若くない」若者語。
「日本語といえない」現代語訳。
不思議なものが、近頃はやります。

投稿者 庵主 : 2006年01月26日 11:55

hijiriさん
コメントありがとうございます。
源氏は本当にいい本です。ぼくも魂をゆっさゆっさ、
とゆさぶられ一時期自失しました。現代語訳→原文の順で
読みました。
源氏はいい現代語訳があるので、比較的読書環境は恵まれていると思います。
逆をいえば、源氏以外はほとんど、いい訳がでていない…。
読書として単純によい本を楽しめる環境が、古典にはありません。かなしいことです…

投稿者 庵主 : 2006年01月26日 12:04

『利休遺偈』の記事に、コメントありがとうございました。
私も最近古典文学に興味があって、図書館に行くといろいろ古い本、新しい本と比べています。
個人的には特に『伊勢物語』など、現代の時勢に比べてみたら面白いと思うのですが、今のところ俵万智さんと杉本苑子さんの解釈本しか見つけられていません。
オムニバス作品として『源氏物語』なみに面白いと思うんですけれど。
たいへん興味あるサイトでした。また遊びに来ます!

投稿者 それいゆ★ : 2006年01月29日 22:31

それいゆ★さん
コメントありがとうございます。
伊勢物語ですね。なるほど。
それでは翻訳候補として、じっくり精読して
みたいと思います。
上で述べたように、まだまだ有名古典作品でも
読書環境の貧弱なものがおおいですねー。
また、ブログの方にも遊びに行きます。

投稿者 庵主 : 2006年01月30日 15:42

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