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大人の"寺子屋"はじまります! 【言の葉庵】No.32

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┣┫OW┃O        リアル言の葉庵「寺子屋 素読ノ会」2009.1.1
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 あけましておめでとうございます。お屠蘇でレロレロ、いい正月ですうぃー
ひっく。さて今年より、何と【言の葉庵】が、街中に出現します。名付けて大
人の「寺子屋」。カルチャーは平日昼間なので、お勤め人のため夜間学校とい
たしました。ぜひお運びください。名言名句は、宋の大詩人蘇東坡の「無一物
中無尽蔵」。墨絵の世界に立ち昇るリアルな、空と有をあなたは感じることが
できるか?連載葉隠は、鍋島藩初代勝茂と孫の二代光茂のそれぞれの「忠のカ
タチ」と「命を延ぶるわざ」をご紹介。みなさん食べすぎ、飲みすぎには充分
ご注意され、よいお正月をお過ごしくださいね。

…<今週のCONTENTS>…………………………………………………………………

【1】ニュースリリース       リアル言の葉庵「寺子屋 素読ノ会」
【2】名言名句第十八回 蘇東坡             無一物中無尽蔵
【3】連載葉隠 No.6「忠」         それは殿に上げ申す米にて候
…編集後記…
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【1】ニュースリリース       リアル言の葉庵「寺子屋 素読ノ会」
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  リアル言の葉庵が、東京渋谷にていよいよこの2月からスタートします。
名付けて『寺子屋 素読ノ会』。都会のど真ん中、大人の寺子屋です。千年の
名著、日本の古典を受講生の方とともに音読し、名文をあじわい、達人の深い
智慧を学ぶ。そして一冊まるごと通読・完読しようとする試みです。
日頃ヴァーチャルな場(このHP)でのみ、お会いしている方と、庵主が直接お目
にかかりいろいろなご質問にもお答えしたいと思います。クラスは『葉隠』
『風姿花伝』『奥の細道』『南録』の4クラス。学校では絶対教えない、学べ
ない、日本の”本物の文化”をぜひ体感してみてください!

「寺子屋 素読ノ会」実施要領はこちら↓
http://nobunsha.jp/img/terakoya%20annai.pdf

千年の名著といわれる日本の古典を読み、学び、親しむ"大人の寺子屋"です。

●「葉隠」「風姿花伝」「奥の細道」「南方録」を読む、全4クラス。
●月1回、各90分。1作品を読了した時点で終講。
 ※おおよそ12~24ヶ月予定。開校日は下記スケジュール参照。
●講師:水野聡(古典翻訳家/能文社代表/言の葉庵主宰)
●会場:渋谷区 勤労福祉会館(渋谷駅より徒歩8分)
●入会金・年会費・登録料等一切無料。1講座1回 \1500の受講料のみ。
●月間フリーパス \3000。当月の4クラスすべてを受講いただけます。
●予約・申し込み不要。どなたでも当日教室にて受講料をお支払いいただけれ
ば参加OK。
●受講クラスの指定テキストは各自ご購入、ご用意の上おいでください。使用
テキストは下記カリキュラム参照。
 ※当会よりプリント・コピーの提供はありません。お忘れの場合「素読」で
きませんのでご注意ください。
●受講生がおひとりでもいる限り講座は続けます。営利都合によるクラス途中
打ち切りはいたしません。


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【2】名言名句第十八回 蘇東坡             無一物中無尽蔵
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 No.35
 無一物中無尽蔵。花あり月あり楼台あり。

~蘇東坡 詩


 蘇東坡は、唐宋八家の一とされる北宋の大詩人。そして、禅家でもあります。
この句は、絵筆をもって真っ白なキャンパスに向かった時、何もないと思われ
た白い空白=無の中に、想像力を働かせ、心を投影すれば鮮やかに、花、月、
楼台がありありと見えてくる、というもの。たとえば、水墨画のような深い霧
の中。あたり一面、灰白色の”無”の世界です。しかしある瞬間ふと目を凝ら
して見れば、間近に鮮やかな花の紅、頭上には煌々たる満月、その月にかかる
幾重もの高楼が、くっきりと浮かび上がってくる…。「無一物中無尽蔵」は、
無の中に有、虚の中に実を観る、禅の悟りをあらわしたものといわれています。

 我執我欲を捨て、心を虚しくすれば、そこにありとあらゆる豊かさが満ちて
くるもの。道元が「放てば手に充てり」と喝破した境地なのです。

 南宋禅六祖慧能も「本来無一物。いずれの処にか塵埃を惹かん」と悟りの偈
を遺しました(六祖壇経)。禅の空の境地とは、菩提もなく煩悩もなく、あまつ
さえ身も心もない、”無一物”のものであるはず。しかればなにゆえ、何もな
いところに塵や埃が積もろうか…、と説くのです。

 そして空虚な無の世界に、満ち溢れる生命力を、日本の侘び茶人は発見する
のです。

 見わたせば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕ぐれ
 (藤原定家 新古今集)

 武野紹鴎は、この歌の中に”侘び茶の湯の心”あり、とした。それに対し、
千利休は、

 花をのみ待つらん人に山ざとの 雪間の草の春を見せばや
 (藤原家隆 六百番歌合)

 の歌に、侘びの根本精神があるとして、手元に書付け愛唱したと伝えます。
墨絵の中におぼろに見える、花、月、楼台。固く厚い根雪を割って萌え出づ
る、鮮やかな緑の息吹き。人は目を凝らし、見ようとする限り、どこにでも
豊かさは見つかるもの。なぜならそれは、すべての人の心の内にあるものだ
からです。


[原文]
素紈描ず意高いかな
もし丹青をつければ二に落ち来る
無一物中無尽蔵
花あり月あり楼台あり

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【3】連載葉隠 No.6「忠」         それは殿に上げ申す米にて候
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毎号、葉隠全千三百話の中から、日本精神を象徴する任意のテーマを設定。珠
玉の名段落をピックアップしてご紹介する連載コーナー。今回は、テーマ「忠」
の第三回です。
 

聞書第四 四一 
 それは殿に上げ申す米にて候。勿体なき事をする人かな。

 勝茂公が、白石に鷹狩にでかけたが、ことのほか寒さのこたえる日であった。
一軒の百姓屋に入り、火に当たらせてもらっていると、この家の姥が
「今朝はひとしおの寒さ。さあ、お当たりなさい」 
 といっては、藁をくべてくれた。しばらく温まった後、礼をいって退出しよ
うとした時、庭に広げた米の上を、うっかりまたいでしまった。姥は怒り、
「それは殿様に差し上げる米じゃ。何ともったいないことをする人じゃ」
 といって、箒で殿の足を打った。殿は
「ごめんあれ」
 といい、逃げて出た。帰られた後、姥の真心に感動し、かの家を白石十人百
姓(名字帯刀お許しの家格)の内に加えた、とのこと。


[鑑賞]
 初代藩主、鍋島勝茂は、三十五万石の大国佐賀を父、直茂から継ぎ、一代大
変な苦労を重ねた殿様でした。国家の基盤を確立するため、佐賀藩史をはじめ
多くの建国史料を編纂。また、「治世の根本は民情を知ること」と、たびたび
藩主の身分を隠し、お忍びで在郷を巡回しました。上はその折ある農家をたず
ねたひとこまです。
老女は、藩主を神のように怖れ、畏まっていたわけではない。むしろ、自分が
この世でもっとも大切に思う人、たとえば一人息子のように恋い慕っていたの
です。その人に差し上げる大事な大事な年貢米をこともあろうに下足で飛び越
えた不届き者がいた。怒りにかられ思わず箒でその足を打つ。しかし、その不
届き者がなんと自分の最愛の殿様であり、白石十人百姓に叙せられる思いも寄
らぬ名誉を受けることとなる。これも葉隠が示す「忠」のひとつのカタチ。
いわゆる武士道書が喧伝する、主従の苛烈な「忠」だけではなく、こんな風に
暖かい血の通い合う「忠」もある…と葉隠は教えてくれます。

聞書第五 四七 
 此方の家は不男が名物にて候。

 お春様(光茂三女)が祝言を挙げた頃のこと。長屋の方へまいり、人通りを見
物した。江戸旗本衆。大名行列。これらの行列が立派に厳しく仕立てているの
を見て、いろいろと品定めをしている最中、光茂公の行列が通る。よその供回
りと比べて、まったく行儀も悪く、男ぶりも衣装も劣っていたので、ことのほ
か不機嫌となった。その後、光茂公がやってきたので、
「この間、長屋より人通りを見物していました。よその供回りは大変立派でし
た。お父上の供回りは散々見劣り、口惜しゅう存じました。きつくお叱りくだ
さい」
 と大そう興奮して、悔し涙さえ浮かべている。光茂公これを聞いて
「そちなどの知ったことではない」
としか申さぬゆえ、
「仔細、お聞かせください」
 と詰め寄った。光茂公は、
「言って聞かせても合点ゆくまいが。あまりに高ぶっておるゆえ申し聞かす。
他国の供回りは、見栄え良き男を選び、背丈を合わせ、見てくれだけで寄せ
集めた日雇いだ。すなわちこれら、ことが起こった時は、主人を見捨てて逃
げる者どもだ。わしの家中は譜代相伝の者のみゆえ、見た目の良し悪しも考
えず、そこに居るものを連れている。それゆえ、見てくれは悪しくとも、い
ざという時一歩もひかず、主人のために命を捨てる男ばかりだ。当家は醜男
が名物なり」
 といった。これは、井上市五郎の母が、その時御前にて承った話である。
それを同日に聞いたとのこと。

[鑑賞]
 勝茂より時代が下って孫の二代光茂の時代の話。なんともほほえましいお
姫様とお父上のやりとりではありませんか。戦国の風もようやく薄れた頃は
元禄、江戸育ちの可憐で気の強い姫君。その面差しが手に取れるようです。
「此方の家は不男が名物」。なんとも鍋島らしい、遺風を感じさせる光茂の
言葉ですね。鍋島家ではきらびやかな大名行列の供回りにも、決して見栄え
の良い侍を選ばなかった。主君のまわりを固めるのは、いつどこでもすでに
「死んでいる」死兵のみ。「これを亡地に投じて然る後に存し、これを死地
に陥れて然る後に生く」と『孫子』(第士篇 九地)に描かれた、忠烈の権化
のような戦国侍なのです。『葉隠』にあっては元禄太平の世であっても、平
時と戦時、死と生が”二つになる”ことは決してない。不承不承、父の言に
耳を傾けていた姫君も、この後江戸大火で鍋島江戸屋敷が全焼する際に鍋島
家訓を、わが身をもって実行することとなります。その話は、また後日。


……………《編集後記》………………………………………………………………

現在毎日、日本中の企業経営者へインタビューをしています。大企業、中小、
ベンチャー、創業者、オーナー、二代目三代目…。業種も規模もさまざまです
が、すべての社長に共通しているのは対人スキルが普通の会社員よりは格段高
い、ということ。それ以外の点では、皆様”フツーの人”です。しかし100年
に一度の大不況といわれる今、どの経営者も四面楚歌。背水の陣を布かざるを
得ない深刻な経営環境にあることは共通です。もはや小手先の打開策では通用
しない。最終的には経営者自身の”人間力”がサバイバルの鍵になるものと
思われる。
”人間力”は学校では学べません。ただ豊潤な人間関係を経験し、長い長い間
気がつかないうちに醸成されてくるもの。まわりにそういう環境がない時、
手っ取り早くいえば、古人に学ぶことが早道です。その道の偉人、達人の書を
ひもとき、虚心坦懐となってこれに学ぶ。数百年、千年、読み続けられ、伝え
られてきた古典は、こういう危機的な状況下でこそまばゆい光を放つのでは
ないか?古典は「死んでいる」「過去の遺物」ではなく、未来を永遠に照らし
続けるものだと改めて認識した次第。(言)

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 皆さんの声をお待ちしています。Good!の投稿は次号にてご紹介いたします。
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2009年01月09日 21:04

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