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『葉隠』書名の由来の秘密。

言の葉庵、第一弾翻訳作品『葉隠 現代語全文完訳』発刊より、はや五年の歳月が流れました。そもそも武士道を代表する、佐賀鍋島藩『葉隠』の書名は一体何に由来するのか。この問に対し、明解な答はこれまで得られませんでした。一般的には、以下のような諸説が唱えられ、「まあ。そんなところか…」とひとまず落ち着いていたのです。

葉隠という語源は定かでない。緑豊かな佐賀城を護持する鍋島侍を象徴するという説、木の葉がくれの雑談であり、今でいう縁陰閑話をさすという説、また、西行『山家集』の中にある次の歌がその語流ではないかとする説がある。
「葉隠れに散りとどまれる花のみぞ、しのびし人に逢う心地する」(西行)
「葉隠れに散りとどまれる花」に、中世の真の武士道があり「しのびし人」に耐え忍ぶ本当の葉隠精神があるものとしている。

 さてここで、日々進化するnetの情報を見てみましょう。現在、Wikipedia「佐賀城」では、以下のように説明されていますね。

佐賀城(さがじょう)は佐賀県佐賀市にあった日本の城。古名は佐嘉城。別名、沈み城、亀甲城。江戸時代初頭に完成し、外様大名の佐賀藩鍋島氏の居城であった。
佐賀市の中心に位置し、城郭の構造は輪郭梯郭複合式平城である。幅50m以上もある堀は、石垣ではなく土塁で築かれている。平坦な土地にあるため、城内が見えないように土塁にはマツやクスノキが植えられている。“城が樹木の中に沈み込んで見える”ことや、かつては幾重にも外堀を巡らし、攻撃にあった際は主要部以外は水没させ敵の侵攻を防衛する仕組みになっていたことから、「沈み城」とも呼ばれてきた。
慶長7年(1602年)本丸の改修を始めた。直茂の計画に則り、次の藩主鍋島勝茂が慶長16年(1611年)に完成させた。内堀の幅は80mにも及ぶ広壮なもので、5層の天守も建造された。

“城が樹木の中に沈み込んで見える”。これが『葉隠』書名の表向き、直接的な由来であることがわかりました。そして、ここで検討したいのが、なにゆえ樹木の中に自分自身が沈みこみ“見えない”ようにする必要があったのか、ということ。
それにはまず、『葉隠』本文の逸話を紹介しましょう。


佐賀城の普請が完成。
「直茂公をご案内するように」
とあったので、駕籠で出向いた。勝茂公はたっつけ袴の出で立ちで、城の設備を一通り一々講釈を加え、あちらこちらとご案内して回った。その後、直茂公がお伽の衆に、
「信濃殿は、城攻めの防備を、精を出し講釈していたが、腹切りの場を忘れてはいなかったか」
といったとのこと。

『葉隠 現代語全文完訳』聞書三 八 (能文社 2006)

 歴史ファン周知のことながら、天下分け目の合戦「関ヶ原の陣」に、あろうことか藩主鍋島勝茂は西軍石田三成に応じてしまう。あわてた父、直茂に呼び戻されたものの、この汚点は終生ぬぐい難く、江戸幕府三百年余の治世において佐賀鍋島藩は外様の名のもと、代々冷や飯を食い続けねばなりませんでした。
「信用できぬ輩」―。家康、秀忠の冷たい視線に、遠い肥前の地にあるとはいいながら、防備を最大課題としてその主城を構築したのは無論のこと。また、関ヶ原以前からの仇敵たる、強敵薩摩島津に備える意味もあったものと思われます。

「80mの内堀」―。まさに驚くべき万全の防御体制です。佐賀城は、まるで湖にぽっかりと浮かぶ、水滸伝梁山泊のごとき難攻不落の城構え。なんとしてもこの国を守り抜こうとする勝茂の決意のあらわれ。また、「腹切りの場を忘れてはいなかったか」と静かに観念する直茂の言葉は、どう転んでも勝ち目のない強敵との戦に、最後の一兵まで、もがき抜き、抗戦し続けようとする「葉隠侍」の不屈の魂を見る思いがします。
「隠れる」という行為は決して卑怯というものではなく、命よりも大切なものを、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで守り抜こうとする、金剛石のごとき意志のあらわれ。
「心頭滅却すれば火も亦た涼し」―。
恵林寺快川和尚の遺偈を彷彿とさせます。
武士道の“葉隠”は、こうして、中世日本文化の中心概念、“侘び”へとつながってくるのではないでしょうか。

2011年10月12日 21:38

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