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聖人のユーモア

聖人君子と呼ばれる人たち。その深い智慧や立派な行いは、後世の人々の目標となり、お手本となっています。名言名句として【言の葉庵】でもたびたび取り上げてきました。
さて人間のユーモアは、高度な知的活動であり、まわりの人を楽しく明るい気分にしてくれるもの。

脳科学者の茂木健一郎氏はユーモアを「メタ認知」の所産とし知性に欠くべからざるものとしています。


今回のテーマは、聖人のユーモア。教養や学習のため、こうした聖人の古典をひもといてみる時、意外にもユーモラスな場面をみつけ、思わずなごんでしまうことが多々あります。
聖書や論語を寝転がって読む機会もあまりないかもしれません。暑気払いとして、世界の三聖人のちょっとおかしいお話をご紹介してみましょう。


1.孔子

孔子が弟子たちを集めて問うた。
「私が年長だからといって遠慮する必要はない。お前たちはいつも世に知られぬことを嘆いているが、もし世に出られたら何をするか」。
三人の優秀な弟子たちは、それぞれ政治・経済・外交の場で活躍したいと答える。
しかし、ひとり曽晢だけは片隅で琴をポツポツと弾いている。
「お前はどうだ」。
孔子にたずねられると曽晢はカラリと琴を置いて立つ。
「お三方と考え方が違いますので」
「かまわないからいいなさい」
「春の暮れ、新しい着物を着て、若者を連れ、沂水で水浴びし、雨乞いの台で風に吹かれ、歌を歌いながら帰る。そのような生活がしとうございます」。
孔子はホッとため息をついていった。
「わしもお前と同意見だ」。
(論語 先進第十一の二十六)

〔ひとこと〕
上の弟子である曾皙(そうせき)は曾子の父。あまりにも生真面目な高弟たちの答えに孔子は気づまりを感じ、一見自堕落にも思える曾皙につい同意してしまったのかもしれません。
しかし世に出、成功した時に「風に吹かれ、歌を歌いながら」家に帰る生活は、孔子ならずとも憧れてしまいます。


2.ブッダ

あるバラモンが、仲間の出家に腹を立てて、釈迦へ非難、侮辱、誹謗の言葉をぶつけた。
彼がいい疲れるまで沈黙を守った釈迦は、このように語ったのだ。
「あなたの家を親戚か客が訪ねたことにしましょう。あなたはごちそうを作って接待しますか」
「もちろん、するとも」
「それでは、訪問予定の客が現れなかったら用意した食事はどうしますか」
「ごちそうだから、私と家内、子供で食べるさ」
「いまあなたはたくさんの言葉で私を接待してくれましたが、私は残念ながら受け取れません。どうぞみなさんで食べてください」
(経蔵/相応部 有偈篇 婆羅門相応)

〔ひとこと〕
罵詈雑言すら接待、おもてなしと受け取るブッダ。興味をもたず、何とも思わない相手に人は、文句のひとつも思いつかないものです。このバラモンはそれだけ自分のことを真剣に考えてくれている、ありがとう。でもこのプレゼントは受け取れないので、どうぞみなさんで分け合ってくださいね…。ニッコリと言葉を返す釈迦に色を失い、このバラモンはブッダに帰依したといいます。


3.イエス・キリスト

それからすぐ、イエスは自分で群衆を解散させておられる間に、しいて弟子たちを舟に乗り込ませ、向こう岸のベツサイダへ先におやりになった。
そして群衆に別れてから、祈るために山へ退かれた。
夕方になったとき、舟は海のまん中に出ており、イエスだけが陸地におられた。
ところが逆風が吹いていたために、弟子たちがこぎ悩んでいるのをごらんになって、夜明けの四時ごろ、海の上を歩いて彼らに近づき、そのそばを通り過ぎようとされた。
彼らはイエスが海の上を歩いておられるのを見て、幽霊だと思い、大声で叫んだ。
みんなの者がそれを見て、おじ恐れたからである。しかし、イエスはすぐ彼らに声をかけ、
「しっかりするのだ。わたしである。恐れることはない」
と言われた。
そして、彼らの舟に乗り込まれると、風はやんだ。彼らは心の中で、非常に驚いた。
先のパンのことを悟らず、その心が鈍くなっていたからである。
彼らは海を渡り、ゲネサレの地に着いて舟をつないだ。

(マルコによる福音書6章45-53節)『口語 新約聖書』日本聖書協会、1954年

〔ひとこと〕
これはキリスト自身意図したユーモアではありません。
「海の上を歩いて彼らに近づき、そのそばを通り過ぎようとされた」。
この状況を頭に思い描く時、神の予期せぬふるまい(水上歩行ではありません)に思わずクスッとなってしまうのです。
暴風吹き荒れる湖上、木の葉のように弟子たちの小舟が翻弄されて、今にも沈没しかかっている。そこへ神が栄光の光に包まれ、水上を静々と歩み寄ってくる。「おお神よ!助けたまえ」と思った瞬間、イエスは無視してかたわらをすっと通り過ぎようとしたのです。
神にも「うっかり」があるのでしょうか。船より先に目的の岸へ急いだ、あるいは漁師の弟子もいるので苦難を切り抜けられると考えた…など、聖書研究者の解釈もありますが、読みようによってはなんともユーモラスな聖書の一場面です。

2017年07月27日 17:22

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