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【日本文化のキーワード】第七回 仕舞い ~お仕舞いのはじまり

今回は、終わりを意味する「お終い」「お仕舞い」について、その語源をたずねていきます。

■「しまい」の意味

今日の日本語「しまい」には、単に終わらせるだけではなく、片づける、始末する、などといったニュアンスを含む、日本語独特の文化・価値観があるようです。
まず辞典で、一般的な語彙をみてみましょう。

しまい【仕舞い・仕舞・終い・粉粧】

〔動詞「しまう」の連用形から〕
① 今までしていたことを終わらせること。 「今日はこれで-にしよう」 「店-」
② 続いているものの最後。一番後ろ。 「 -まで全部読む」 「 -には怒り出す」 「 -風呂」
③ 物がすっかりなくなること。商品が売り切れること。 「お刺身はもうお-になりました」
④ 決まりをつけること。始末。清算。 「其の詮議を傍道からさし出て-のつかぬ内には何となさるるな/歌舞伎・毛抜」
⑤ 遊里で、遊女が客に揚げられること。 「みな一通り盃すみ、此の間に松田屋を-にやる/洒落本・通言総籬」
⑥ 〔「じまい」の形で〕 動詞の未然形に打ち消しの助動詞「ず」の付いた形に付いて、(…しないで)終わってしまったという意を表す。 「行かず-」 「会わず-」
⑦ (「粉粧」とも書く)化粧。 「花嫁の美くしう濃こつてりとお-をした顔/塩原多助一代記 円朝」
(『大辞林 第三版』三省堂)


■日本文化は「しまう」文化

日本語と日本文化には、さまざまな「仕舞い」のかたちがあります。

【能の仕舞】
言の葉庵読者の皆様なら、仕舞いと聞くと、まず能の仕舞をイメージされるかもしれません。
能の仕舞は一曲の見どころ、聞きどころを、シテが紋服姿で扇をもって舞う略式上演形態。
その昔、貴人の要望に応え、能を演じ終わったシテが催しの終わりにアンコールとして舞ったもの、とする説があり、「お仕舞」から終わりを意味する「お仕舞い」が生まれたともいい伝えます。
「しまふ」の言葉が鎌倉~室町時代に成立しており、そこは符合するようです。
一日をきれいに舞い納める―。能の仕舞には、美しくしめくくるというニュアンスがたしかにあります。

【仕舞いの挨拶】
茶道薄茶の点前で、仕舞いの挨拶という決まりごとがあります。薄茶を飲み終え、戻ってきた茶碗に亭主が湯を入れ建水に捨てたタイミングで、正客が「どうぞお仕舞いください」と挨拶する。これで主は次の点前に取り掛かりますが、あ・うんの呼吸できれいに場を納める「仕舞い」の思いを感じ取れます。

【ご供養仕舞い】
仏教では仏壇や位牌を処分することを「ご供養仕舞い」といいます。仏壇は自治体で粗大ごみとして処分できますが、さすがにそうも出来ない時に、僧侶が呼ばれ「ご供養仕舞い」が行われます。
僧により仏壇から魂を抜いてもらう法式を「魂抜き」、または「性根抜き」というそうです。そしてただの家具となった仏壇は専用施設で焼却されますが、これを「お焚き上げ」といいます。

【しもたや】
時代劇などでよく耳にする「しもたや」。漢字で書くと意が通じます。仕舞た屋。京言葉の「しもうた家」のこと。以前は商いをする家であったものが、店をたたみ一般の住まいとして人が住む家をさします。老夫婦が住まう閑かなたたずまいが感じとれる呼び名ではないでしょうか。

日本文化の「仕舞う」には、ただの終わりではなく、きれいに片づけ、整えて、次の新しい命を生み出し、呼び入れていくための知恵が宿っているのです。


■「舞」の字は、「無」から生まれた

「しまい」は、「終い」「仕舞い」と表記します。終いは意味からあてた字ですが、一般的に「仕舞い」を書く場合が多く、もともとこの表記でした。
なぜ終わりを表す文字に「舞」を用いたのでしょうか。漢和辞典【舞】の字解には以下のようにあります。

【舞】ブ/まう
字解 
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形声。舛(セン)が意符で、まい足のそむきあう意を表し、無(ブ)が音符。一説に象形。もと無がまいの象形字であったが、もっぱら否定詞に借用されたため、まい足の象形、舛を加えて、まいの字にしたという。
(『新漢和辞典』大修館書店)

白川静『常用字解』では、甲骨文字から篆文体にいたる字形の変遷とともに、より詳しく「舞」の字の発祥が語られます。

【舞】
解説 もとの字は舞に作り、無と舛とを組み合わせた形。無は舞う人の形。衣の袖に飾りをつけ、袖をひるがえして舞う人の姿である。無がもっぱら有無の無(ない)の意味に用いられるようになって、舞う時の足の形である舛(左右の足が外に向かって開く形)を加えて舞とし、「まう、まい、おどる」の意味に用いる。無はもと舞雩(ブウ)という雨乞いの祭りで、甲骨文には舞雩のことが多く見える。

⇒舞の字の変遷
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「舞」が衣の袖に飾りをつけて、舞う人の字形であり、「舞」の元字である「無」が雨乞いの祭りをあらわした、と白川は説きます。
ではなぜ、「無」が否定の語として用いられるようになったのでしょうか。


■無いものを求めて、人は舞う

古代より人は、雨を天に乞うて祭り、踊りました。「舞」や「武」の字は、もともと足りないもの、無いものを求める、という根本義があるとする説を紹介しましょう。

「『釈名』に「武は舞なり」という語源説がある。逆に「舞は武なり」も成り立つ。武は「無いものを求める」という
コアイメージがある(1600「武」を見よ)。王力は巫と舞を同源とする(『同源字典』)。藤堂明保は武・巫・舞・無・馬・摸などが同源の単語家族を構成し、「探り求める」という基本義があるという(『漢字語源辞典』)。
miuag(舞)という言葉は巫・武と関係がある。巫(シャーマン)は舞うことによって神に幸いを求める人である。また武は力によってむりやり領土や物(戦利品)を求めようとする行為である。これらの行為の前提をなすのは「無」である。こちらに無いからこそ他から求めようとする。シャーマンは踊ることによって無いものを求める。「おどる」と「ない」が結びついている。「おどる」⇄「ない」は巫という語では可逆的なイメージとなっている。舞と無の関係もこれと同じである。」

(HP常用漢字論―白川漢字学説の検証)


■日本人は、ひとさし舞って無へ帰る

 旅に病んで夢は枯野をかけめぐる

 (松尾芭蕉 元禄二年)


人は自らの終焉に臨み、辞世の句を詠んで静かにわが生を振り返ります。
そして扇を手に、ひとさし舞って最期に花を添えるもの。これこそ真正の武士と目されたのです。

本能寺の変の時、豊臣秀吉が水攻めをかけたのが毛利方である、備中高松城でした。
城主清水宗治は自らの首とひきかえに、城兵五千の命を救うことを条件として、秀吉との和睦を受け入れました。

最期の朝、巨大な湖に没した高松城より、宗治主従を乗せた小舟が静かに敵陣へ向け漕ぎ出します。
以下本文を、戦時中の初等科国語教科書「ひとさしの舞」よりご紹介しましょう。

いつのまにか、夜は明けはなれてゐた。
 身を淸め、姿を正した宗治は、巳みの刻を期して、城をあとに、秀吉の本陣へ向かつて舟をこぎ出した。五人の部下が、これに從つた。
 向かふからも、檢使の舟がやつて來た。
 二さうの舟は、靜かに近づいて、滿々とたたへた水の上に、舷ふなばたを並べた。
「お役目ごくらうでした。」
「時をたがへずおいでになり、御殊勝に存じます。」
 宗治と檢使とは、ことばずくなに挨拶あいさつを取りかはした。
「長い籠城ろうじやうに、さぞお氣づかれのことでせう。せめてものお慰みと思ひまして。」
といつて、檢使は、酒さかなを宗治に供へた。
「これはこれは、思ひがけないお志。ゑんりよなくいただきませう。」
主從六人、心おきなく酒もりをした。やがて宗治は、
「この世のなごりに、ひとさし舞ひませう。」
といひながら、立ちあがつた。さうして、おもむろに誓願寺せいぐわんじの曲舞くせまひを歌つて、舞ひ始めた。五人も、これに和した。美しくも、嚴かな舞ひ納めであつた。
 舞が終ると、
 浮世をば今こそわたれもののふの名を高松の苔こけにのこして
と辭世の歌を殘して、みごとに切腹をした。五人の者も、皆そのあとを追つた。
 檢使は、宗治の首を持ち歸つた。秀吉は、それを上座にすゑて、「あつぱれ武士の手本。」といつてほめそやした。


無に帰することを天に祈り、舞い納める日本語の「仕舞う」。
現代人のぼくたちにとって、卒業、定年、終活など人生の節目をむかえるにあたって、忘れてはならないキーワードではないでしょうか。

■言の葉庵HP【日本文化のキーワード】バックナンバー

・第六回 間

・第五回 位

・第四回 さび

・第三回 幽玄

・第二回 風狂

・第一回 もののあはれ

※「侘び」については以下参照
・[目利きと目利かず 第三回]

・[目利きと目利かず 第四回]

2018年09月02日 10:18

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