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名言名句 第五十二回 論語 朝に道を聞かば、夕に死すとも可なり。

 No.68
朝に道を聞かば、夕に死すとも可なり。~孔子『論語』里仁篇


〈原文〉
子曰、朝聞道、夕死可矣。

〈読み〉
しいわく、あしたにみちをきかば、ゆうべにしすともかなり。

〈読解〉
先生はおっしゃった、
「朝真理を聞くことができれば、その日の夕方死んだとしても悔いはない」と。

人は何のために生まれ、どのように生きていけばよいのか。
「朝聞道、夕死可矣」のたった七文字に言い尽くされた、孔子の名言です。

あまりに短い、この句の解釈には古来より2つの説がありました。
それは孔子の「道」をどのように読むかの違いです。

一つ目は、『論語』の〔古注〕で示された見解。魏の何晏等による解釈では、孔子の生きた時代背景をもとに「道」を「王道」と考えました。
孔子が生まれた春秋時代は、周王朝の後期、東周にあたり、王室は形骸化して小国が分裂・乱立。
国王に力も徳もなく、家臣は主君を弑し、乱れに乱れた時代でした。
この時代に生まれ落ちた孔子は、学問を追求し、仁(人類愛)と礼(社会秩序)をもととした、徳により治められる理想国家の実現を目指したのです。

これが、古注のいう「道」、すなわち、
「朝、天下に正道が行われていることを聞けたなら、私は思い残すことなくその日死んでもよい」
と、死期の迫った老孔子が弟子たちに漏らした嘆きである、とする説です。

もうひとつの説は、やはり死を目前としながらも孔子の学問への熱い思いが尽きることはない、と解釈したもの。南宋の朱熹による『論語』〔新注〕の解釈では、「道」を「真理」ととらえました。
この説が今日一般的に採用され、上の「朝真理を聞くことができれば」が通説となっています。
真理をつかみとることが、生涯の一大事であるという姿勢は、後世の頓悟禅の求道者を彷彿とさせます。

「朝聞道」の対極にある成語に、「酔生夢死」があります。
これは北宋の『程子語録』にある、次の一文からの句です。

雖高才明智、膠於見聞、酔生夢死、不自覚也

いかに才知に恵まれようとも、見聞にとらわれるだけでは、酔生夢死のようなもの。自ずと悟ることはない、という意です。
この「酔生夢死」とは、酒に酔ったようにぼんやりとし、何もなさずに一生を過ごすこと。
真理を悟ったたった一日と、何もわからず何もなさず過ぎ行く八十余年。
いずれも人の一生に違いないけれど、臨終の時、
「本当に生まれてきてよかった」と満ち足りて目をつむるか、
「あれもしていない、これも食べていない、あんなことをしなければよかった」
と迷い、もがく内に絶息するか。
両者の終わりには、同じ人間ながら比べようのないほどの大きな隔たりがあるに違いありません。

釈迦はこのように教えてくれました。

愚かに迷い、心の乱れている人が百年生きるよりは、
知慧あり思い静かな人が一日生きるほうがすぐれている。

~ブッダ『ダンマパダ』(ブッダの真理のことば)

2015年07月03日 17:02

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