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No.68
朝に道を聞かば、夕に死すとも可なり。~孔子『論語』里仁篇
〈原文〉
子曰、朝聞道、夕死可矣。
〈読み〉
しいわく、あしたにみちをきかば、ゆうべにしすともかなり。
〈読解〉
先生はおっしゃった、
「朝真理を聞くことができれば、その日の夕方死んだとしても悔いはない」と。
人は何のために生まれ、どのように生きていけばよいのか。
「朝聞道、夕死可矣」のたった七文字に言い尽くされた、孔子の名言です。
あまりに短い、この句の解釈には古来より2つの説がありました。
それは孔子の「道」をどのように読むかの違いです。
一つ目は、『論語』の〔古注〕で示された見解。魏の何晏等による解釈では、孔子の生きた時代背景をもとに「道」を「王道」と考えました。
孔子が生まれた春秋時代は、周王朝の後期、東周にあたり、王室は形骸化して小国が分裂・乱立。
国王に力も徳もなく、家臣は主君を弑し、乱れに乱れた時代でした。
この時代に生まれ落ちた孔子は、学問を追求し、仁(人類愛)と礼(社会秩序)をもととした、徳により治められる理想国家の実現を目指したのです。
これが、古注のいう「道」、すなわち、
「朝、天下に正道が行われていることを聞けたなら、私は思い残すことなくその日死んでもよい」
と、死期の迫った老孔子が弟子たちに漏らした嘆きである、とする説です。
もうひとつの説は、やはり死を目前としながらも孔子の学問への熱い思いが尽きることはない、と解釈したもの。南宋の朱熹による『論語』〔新注〕の解釈では、「道」を「真理」ととらえました。
この説が今日一般的に採用され、上の「朝真理を聞くことができれば」が通説となっています。
真理をつかみとることが、生涯の一大事であるという姿勢は、後世の頓悟禅の求道者を彷彿とさせます。
「朝聞道」の対極にある成語に、「酔生夢死」があります。
これは北宋の『程子語録』にある、次の一文からの句です。
雖高才明智、膠於見聞、酔生夢死、不自覚也
いかに才知に恵まれようとも、見聞にとらわれるだけでは、酔生夢死のようなもの。自ずと悟ることはない、という意です。
この「酔生夢死」とは、酒に酔ったようにぼんやりとし、何もなさずに一生を過ごすこと。
真理を悟ったたった一日と、何もわからず何もなさず過ぎ行く八十余年。
いずれも人の一生に違いないけれど、臨終の時、
「本当に生まれてきてよかった」と満ち足りて目をつむるか、
「あれもしていない、これも食べていない、あんなことをしなければよかった」
と迷い、もがく内に絶息するか。
両者の終わりには、同じ人間ながら比べようのないほどの大きな隔たりがあるに違いありません。
釈迦はこのように教えてくれました。
愚かに迷い、心の乱れている人が百年生きるよりは、
知慧あり思い静かな人が一日生きるほうがすぐれている。
2015年07月03日 17:02
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名言名句 第五十二回 論語 朝に道を聞かば、夕に死すとも可なり。
名言名句 第五十一回 葉隠 添削を依頼してくる人のほうが、添削する人よりも上なのだ。
名言名句 第四十八回 細川茶湯之書 何とぞよきことを見立て聞き立て、それをひとつほめて、悪事の分沙汰せぬがよし。
名言名句 第四十七回 源氏物語 老いは、え逃れられぬわざなり。
名言名句 第四十六回 貞観政要 求めて得たものには、一文の値打ちもない。
名言名句 第四十五回 スッタニパータ 人々が安楽であると称するものを、聖者は苦しみであると言う。
名言名句 第四十四回 紹鴎遺文 きれいにせんとすれば結構に弱く、侘敷せんとすればきたなくなり。
名言名句 第四十三回 風姿花伝 ただ、時に用ゆるをもて花と知るべし。
名言名句 第四十二回 葉隠 只今の一念より外はこれなく候。一念々々と重ねて一生なり。
名言名句 第四十一回 ダンマパダ 愚かに迷い、心の乱れている人が百年生きるよりは、知慧あり思い静かな人が一日生きるほうがすぐれている。
名言名句 第四十回 玲瓏集 草木の苦しみ悲しみを、人は知らず。
名言名句 第三十九回 申楽談儀 美しければ手の足らぬも苦しからぬ也。
名言名句 第三十八回 紹鴎及池永宗作茶書 枯木かとをもへば、ちやつと花を咲様に面白き茶湯なり。
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