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名言・名句 第五回 風姿花伝 上手は下手の手本

 その9
 上手は下手の手本、下手は上手の手本。

 その10
 花は心、種はわざである。

~世阿弥『風姿花伝』第三 問答條々より。


第五回目は、久しぶりに「名言・名句テスト」を出題しましょう。
今回の世阿弥の名言、「上手は下手の手本、下手は上手の手本」、「花は心、種はわざである」それぞれの正しい意味を下の二つの選択肢から撰んでみてください。


第一問 「上手は下手の手本…」の正しい意味は?

1. 自分がいまだ下手であった頃の上達しようとするひたむきさを、下手が上手に対して初心に戻し、気付かせてくれるから。
2.上手が下手に、「あんな下手から一体何を学ぶのだ」という慢心に自ら気付かせてくれるから。


[正解と解説]
 まず、第一問目の正解は、2.「上手が下手に、あんな下手から一体何を…」です。『風姿花伝』第三 問答條々に、「人には得手不得手がある。下手にもいい面があった場合、これを上手が学んではいけないのか」との問が立てられます。これに答えて世阿弥は、上手が陥りやすい罠、下手がなぜいつまでたっても下手なのか、を深層心理に立ち入って実に説得力のある解答を示します。
 結論からいいますと、上手下手ともに最も気をつけなければならないのは、うぬぼれ、慢心である、と戒めます。これがこの答えの「あんな下手から一体何を学ぶ」です。また、慢心以前に、
「上手は名を頼み、技能にかくされ自分の欠点が見えなくなっている」、
「下手はもとより工夫せず、欠点も見えないので、たまたまある長所にも気付かない」
と、客観的自己評価・気付きの重要性をあわせて指摘しています。

[本文抜粋]
 一切のことに得手といって、生まれながらにして与えられたよい面があるもの。(中略)
 いかに下手なシテであっても良いところがあると気付けば、上手もこれを学ぶべきだ。これが一番の方法である。もし良いところに気付いても、自分があんな下手から何を学ぶのだと思い上がる。この心にしばられて自身の悪いところをも無視するようになってしまう。これがすなわち極め得ぬ心となる。
また下手にも上手の悪いところが見えた場合。あんなに上手なのに欠点があるものだ、ということは初心の自分にはさぞかし欠点も多いはずと悟り、これを恐れ人にも尋ね工夫をする。これが良い勉強良い稽古となって能は早く上達するだろう。かたや自分はあのように悪い芸などするはずがないと慢心を持てば、自分の長所をも全くわきまえないシテとなってしまう。長所を知らねば短所もよしとしてしまうもの。こうなるといくら年季を積んでも、能は上がらない。これすなわち下手の心というものである。さればたとえ上手であっても、思い上がりは能を下げる。いわんや根拠のない思い上がりはなおさらのこと。よくよく公案し考えることだ。上手は下手の手本、下手は上手の手本とわきまえ工夫すべし。

第二問 「花は心、種はわざである」の正しい意味は?

1. 心を込めて演じれば芸に花が咲き、わざを工夫すればおのれの芸のこやし(種)となるのだ。
2. 幼い頃から積み重ねてきた稽古の数々、演技のひとつひとつをすべて忘れずに持ち、蓄積していくべし。そこから芸の花は咲く。種がなければ花は咲かない。


[正解と解説]
 第二問目の正解は、2.「幼い頃から積み重ねてきた稽古の数々…」です。
同著、花伝第七別紙口伝に、「年々去来」の花を忘れぬことが大事、とあります。これは幼い頃より、壮年にいたるまでその時代時代に自ずと身についた芸を、すべて今一度に持つことだといいます。花は枯れても、種さえ残れば季節が巡り、また美しい花を咲かせるもの。年とともに去っては、年とともにまた来る花。「年々去来」の花を咲かせるのが、これまでに仕覚えた数々の稽古と芸であり、これを種であるとしています。
種を忘れない心こそが、永遠に枯れない花をもつ源。この芸域、境地に至った、ただひとりのシテが亡父観阿弥である。その花を失わぬ心を忘れないため、子孫に残し置くのが、この『風姿花伝』である、と世阿弥は締めくくっているのです。

[本文抜粋]
 花を知るということ、すなわちこの道の奥義を極めることとなる。一大事ということも、秘事ということも、すべてこのひとつの道に通じている。まずおおよそは稽古・物学の各段に詳しく書き記した。時分の花、声の花、幽玄の花。これらの花は人の目にも見えるものである。しかし、その芸より出で来る花であり、自然に咲く花のごとく、やがてまた散り失せる時が来る。つまりその命久しからねば、天下の名望もはかない。ただまことの芸の花は咲く道理も散る道理も心のままである。されば名望も消えることはない。
 この理を悟るにはいかがすべきか。はたして別紙の口伝にでもあるものだろうか。ただいたずらに穿鑿すべきものではない。まず七歳よりこのかた年来稽古の條々、物真似の品々をよくよく心中に当てて分かち覚え、能を尽くし工夫を極めて後、この花の失せぬところを知るべきである。この物数を極める心が、すなわち花の種となる。されば花を知りたくば、まず種を知ること。花は心、種はわざ(芸)である。古人はいう。

心地含諸種 普雨悉皆萌
頓悟花情己 菩提果自成

心の地に含む仏性の種は 大慈悲の雨に悉皆萌ざす
即座に花の情を悟り己われば 菩提の果は自ら成ず
風姿花伝はこちら

2006年04月29日 09:20

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